夢追い人

やたらと眠い日、あまりの睡魔に耐えかねて時間を決めて仮眠をとることにした。いつも明るい画面を長時間見ているせいで頭痛を起こすので部屋の明かりを全て消して横になった。暗闇は怖いが仕方がない。
夢はすぐに始まった。いつもの道路の右側の歩道を歩いている。いつものスーパーへ、ひとりで行こうと意気込んでいた。まだ陽がある午後、前を歩いているおばちゃんが対向車線側に居る知り合いに気づき、世間話の入口になる挨拶を投げかけた。「どうだ、元気にしているか?」相手も返事を返す。「おまえさんはどうだ、元気にしているか?」おばちゃん達は立ち止まって会話を始める。私も足が止まる。すると歩道の前方から人が来て、おばちゃんと私とで詰まった道ですれ違えないことに気づき「(まったく、)なにをしてるんだ」と独り言を漏らして無理やりすれ違おうとする。その人を見ると、高校の頃の化学の先生だった。先生はエベレスト登頂を果たすなど、山登りを頑張っている人だ。以前一度、東京で偶然先生を見かけたことがあった。また来て何かを頑張っているのかなと思い、「あっ先生!がんばってね!」とつい声をかけ、先生の背中を見送った。(先生は細かい事を気にしないであろう人なので声をかけられて立ち止まるような人ではない(はず。))前を向き直すと、辺りは真っ暗で、街灯の周辺以外はまるで明るくなく、息も詰まるような暗闇だった。もういちど振り返って先生の背中を見るが先生もどんどん暗闇の中へ行ってしまった。私はスーパーへひとりで行こうと意気込んでいたはずなのに、この先何メートルも続く暗闇を進むことができるだろうか。暗闇はひたすら怖く不気味で、嫌な予感しかしなかった。不穏を察知した私の身体は、夢から覚めた。
真っ暗闇の布団の上で私の身体は強張っていた。明かりが欲しくて携帯電話を開くと、まだ眠ってから20分しか経っていなかった。相変わらずの眠気が、またあの怖い場所へと私を引き戻そうとする。寝るまい、寝るまいと思いながらもついうとうととしてしまう。半分寝かけたとき、ある映像が頭の中に映し出された。私は1本の白い道を歩こうとしていて、それはさっきまで見ていた夢のストーリーが道になったものだった。私はその道(夢のストーリー)をこれ以上辿りたくなくて躊躇していると、なにやら人の気配がした。さりげなく後ろを窺うと、3人の虚無僧(こむそう)が私に見つからないようにあとをつけて来ていた。3人は私にバレていないつもりのようだが丸わかりだった。この3人が私を眠らせ、夢を見させ、この道(この夢のストーリー)を辿らせようとしているのか。ますます私は従うまい、と奮い立ち、その映像を振りきって目を覚ました。
眠い目をこすり、開きっぱなしになっていた携帯でカードゲームのアプリを開始させた。頭を使って眠気を振り払う作戦だった。私のすきなカードゲーム。いつものようにプレイしてみたら、何故だか一度も勝てない。いつもの戦績から考えてもおかしいほど連敗していた。8連敗ほどしたとき、「もういい!」と怒りが込み上げて、完全に眠気が覚めた。私は部屋の電気を点けて完全に起床した。
虚無僧たちはまだあの道で私が戻ってくるのを待っているのだろうか。ターゲットに夢を見させ、夢見人の後を追い、ストーリーに干渉するのが彼らの仕事なのだろうか。
しかし私の夜は長い。まだまだそこへ行くつもりは無い。何時間でも待つといい。