少年官学生訓練のこと

俺達は今、訓練をしている。白いワゴン車2台に6:6で分かれ、長距離を移動し、様々な土地での様々な状況に応じた訓練をする。ちょうど今は移動中で、富裕層の作りだしたユートピア(珍しい動物や愛玩動物などを広い土地を使って道路沿いに展示している区域)を通り過ぎているところだ。白い陶器や植物で装飾された広い庭が区切られながら続き、様々な箱庭が景色として流れていく。血統書付きの仔猫たちがリボンなどで飾り立てられ、陶器で出来た装飾皿のようなものの上に一列に並ばせられている。区切られた隣の庭には大きくて白いジュゴンが居て、中央にある噴水と池で水遊びをしているようだ。
ユートピアを過ぎて昼食の時間となった。使われていない学校を間借りし昼休憩となり、各々ガランとした教室で配付された弁当を食べた。ちょうど食べ終える頃、校内放送用のスピーカーから「官学生の皆さん、今からすぐに戻って来なさい。早く戻らない者は“手首から流血する事”になるでしょう。至急、戻ってきなさい。」と通達があった。
手首から流血とはペナルティを意味しているのか?危険を想定し喚起しているのだろうか?
俺はただちに移動を開始した。もたついている仲間を急かして一緒に行ったほうが良いのかとかトイレを済ませてからのほうが後々の車移動が精神的に楽だとかが一瞬頭を過ったが、思った時には既にトイレへ向かって移動していたので仲間に声をかける暇はなかった。急いでトイレへ駆け込み個室へ入ったが、小さな子供用の青い靴が(忘れ物だろうか?)置いてあって扉にひっかかり、閉まりきらないまま急いで用を足し、一目散に走って車へ戻った。至急と言われたのにトイレへ寄る自分は訓練を甘く見ているようだし驕ってもいたようだが、ワゴンへ飛び乗ると一着だった(こんなんだから驕ってしまうのかもしれない)。車には運転手と訓練機関の職員が待っていて、職員の女が助手席から後ろへ身を乗り出して「さっすが!やっぱ2人なんだねえ。」と言った。2人とは俺ともう一人、隣の(もう一台のほうの)ワゴンへ一着した山川のことだろう。山川と俺は他の10人より少し成績が良い。(仲間の中でも一番仲が良く、良きライバルのような相手だ。) 山川も向こうのワゴンの中からこちらを見ていたようで目が合った。だがここで俺はものすごく自分に違和感があることに気が付く。2台のワゴンに次々と到着し乗り込んでくる仲間たちの顔ぶれを見ると、あきらかに先ほど(昼前)のメンツ(同じワゴンへ乗っていた他の5人)と違っている。同乗する仲間たちは別段変わった様子もなく、おかしいのは俺のほうで、さっきまでの俺ではないような感覚に襲われていた。どうやら仲間の中の誰かと身体が交換されてしまったようだ。(山川と俺とが別々のワゴンへ乗り込んでいることでハッとした)
山川!矢口!江島!俺はそっちのメンバーと一緒だったハズだったのに! こちらのワゴンへ乗り込んでくる仲間たちは幼い顔をいっそう幼くさせて不思議そうに慌てる俺を覗きこんでいる。
 
 

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職員の女が “さすが・やっぱり”と言ったということは身体やみてくれは俺のままなのか。ならばこの違和感は何だろう。さっきまでと明らかに違う感覚はどういうことなのか。もしくは“さすが・やっぱり”で山川と並ぶのは俺ではなく入れ替わったほうの仲間のことを指していたのか。
ひっかかるのはトイレで見た小さな2つ(左右)の青い靴だ。あの靴と接したことで何かが狂ってしまったような気がする。